三陸のドキュメンタリー映画「廻り神楽」を見てきました


sognoさんのブログで、たびたび紹介されていた三陸のドキュメンタリー映画「廻り神楽」が東京のポレポレ東中野で上映されると聞いて行ってきました。すばらしい映画だったので私のブログでも紹介したいと思います。お近くの方はぜひ足をお運びください。これから地方でも公開されると思いますので、公式サイトもぜひチェックして下さいね。2017年キネマ旬報文化映画ベストテン作品になったそうです。重要無形民俗文化財に指定された黒森神楽の記録でもありますが、東日本大震災後の沿岸の人々の生活のベースにある力強さを描いたドキュメンタリーでもあります。感動をお伝えしたくてちょっと長めの記事になってしまいました。お許しください。



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JR東中野駅前にある映画館です。



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映画館は地下ですが、大漁旗が飾られていました。



三陸地方は震災の被害が特に大きかった地域ですが、そこでは、340年以上絶えることなく引き継がれている「廻り神楽」という伝統芸能があるそうです。そしてそれはあの震災の後も変わらずに続けられているそうです。



劇場が暗くなり、「昔々… 峠を越え、山から山、海から海へ、一夜の宿を乞いながら旅をする神楽衆がおりました。ある時大津波があって、海辺が大変な目に遭いました。神楽衆は人々を慰めようと村々を訪ねました。」 東北弁で語る一城みゆ希さんの温かいナレーションを聴くと観客はもうすでに現地の世界に引き込まれます。



廻り神楽とは(公式サイトから)
北は久慈から南は釜石まで、岩手県三陸沿岸の150kmにおよぶ地域を340年以上巡り続けてきた「廻り神楽」。正月になると黒森神社の神霊を移した「権現様」(獅子頭)を携えて集落を廻り、家の庭先で悪魔払いや火伏せの祈祷を行う。夜は宿となった民家の座敷で夜神楽を演じ、人々を楽しませる。人生のあらゆる節目の願いに応じ、亡き人の魂には神楽念仏を捧げる。



お正月に宮古市山口地区にある黒森神社の神前で、ご神霊を「権現様」と呼ばれる2頭1対の獅子頭に移すおごそかな行事「舞い立ち」から始まります。神職が祝詞をあげるなか神楽衆が笛、太鼓、手平鉦を鳴らします。お揃いの青い着物が素敵でした。若い人が多いのが目立ちます。北廻り(宮古市~普代村)と南廻り(宮古市~大槌町)があって、1年交代で沿岸を1-2か月かけて巡業するそうです



魂をいれた権現様を携えた一行は、沿岸集落の家々を廻り、玄関先でその家の繁栄を願って「門うち」を舞います。笛、太鼓、手平鉦の音色が軽快で耳に残ります。衣装はずっとカラフルになります。舞は若手が多く力強いです。



その日一晩泊まることになる神楽宿(民家だったり公民館だったり)の前に到着すると、「舞い込み」と呼ばれる権現舞を舞います



また権現様に供えるシットギ(大きなお餅?)を用意している神楽宿では、作っている臼を庭に据えて、太刀や杵を持った舞手が臼のまわりで美しく舞う「シットギ舞い込み」を踊ります。この場面はドローンで上空から撮影されていて、臼の周りを円を描いて舞う姿が特に美しかったです。



この時、臼の中のシットギ(米粉を水で溶いたもの)を杵やすりこぎにつけて、まわりで見ている大人やこどもの額や鼻につけてくれます。お守りになるそうです。



神楽宿に入る前に、家の前で瓦などに載せた小さな火を焚きます。 それを権現様が勢いよく踏みつけて消します。「火伏せ」と呼ばれる儀式でこれを経て家の中に招き入れられます



村の衆を招いて神楽宿の座敷で舞われる夜神楽の舞がまたすごいです。これはもう映画を見ていただかないとその素晴らしさは伝わりません。恵比寿舞、八岐大蛇退治、山の神舞が紹介されていましたが、他にも演目はたくさんあるそうです。なにしろ舞手とそれを見て楽しむ三陸の人々の駆け引きが場を大いに盛り上げます。



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映像が実にきれいです。各ショットが美しい。無駄なショットがありません。
まだ若い監督さん2人によって作られたそうですが、すばらしいです。



黒森神楽がやって来ることが、三陸に住む人々にとって、どれほど待ち遠しいことかよくわかりました。



海も美しい。恐ろしい災害を起こす海でもあるけれど、海から日々の糧を得ている人々は「人災は許せねえけど、天災は仕方がねえべえ」と言います。



印象的だったのは、神社に奉納される一般的な神楽と違い、黒森神楽が人々の様々な願いに応えていることです。
舟を流され、ようやく中古で手に入れた一艘の船の大漁を祈る「船祝い」
家を失い、高台に再建した家の新築を祝う「柱固め」
犠牲者の鎮魂を祈る「神楽念仏」



神楽宿として家や旅館を提供する人々自身も家族を失い、ご自身も被災しています。宝来館の女将岩崎昭子さんも一瞬で海に飲み込まれて仰向けになり、青い空が見えたそうです。その後すぐ暗い海に沈んだのですが、上にかすかに明るいところが見えて「生きよう」と上に向かっていったとおっしゃいます。宝来館のホームページです。他に、舞手の方のご家族も3階建ての3階部分の天井の上にあいた隙間で息をつないだとか、ドラマのような話がたくさんありました。



この日は上映後にトークイベントがありました。詩人の佐々木幹郎さんでご専門は現代詩だそうですが、最近は東北の民謡をテーマに研究をしているそうです。震災のあった年の7月に二代目高橋竹山さんと三陸を回ったそうです。そのころ東京では震災後、歌舞音曲が控えられていました。海、波にかかわるものは一切タブー視され、ライブ活動も中止され、テレビの内容も大きく影響を受けていました。でも、現地に行って見ると、民謡でも「大漁唄いこみ」が一番人気で求められたそうです。今日は不漁でも明日はいいことがあるだろうと「予祝」の気持ちで「大漁唄いこみ」を歌う。そんな強さが東北にはあると感じたそうです。タブーにするのは東京だけかもしれないと。東北はものがたりの宝庫ともおっしゃっていました。



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実は、震災があった時、私の父が末期の癌で予断を許さない状態で入退院を繰り返していました。その日は電車が突然止まる中なんとかタクシーをみつけて横浜の病院にたどり着きました。その後、毎日テレビで伝えられる東北の惨状に何かしなければと思いながら、何もできずにいて、4月に父が実家で亡くなっても一人残された母の介護でいっぱいいっぱいでした。あの日以来、未曽有の天災に何もできなかった負い目がずーっと心に残っていたのですが、この映画に出会い、登場する東北の人々の力強さに救われた気持ちがしています。


公式ホームページのサイトです。


ツイッターのサイトです。


Facebookのサイトです。


おすすめです。sognoさん、すばらしい映画をご紹介下さりありがとうございます。記事の内容に不備などありましたら、ご教示くださいね。



コメント

ありがとうございます

両親が東北出身で東北で仕事をした何かと縁のある人間からすると東北に興味を持っていただいてありがたい
何かと暗いとか寒いと言った重苦しいイメージで見られますが明るく力強い面もあるんです
最近は足が遠のいてしまっていますがポレポレ東中野は興味深い映画を上映しますね
2月から上映される「おだやかな革命」もチャンスがあれば見ていただければと思います
監督の渡辺君は勤務していた大学の卒業生で以前に「よみがえりのレシピ」という在来品種の食べ物を追った素晴らしいドキュメンタリーを作りました
結構色々なイベントで今でも上映されてます
私も時間が合えば行きたいなと思っております
さんざん宣伝してしまいました
HP http://odayaka-kakumei.com

ポレポレ東中野

ゼペットおばさん コメントありがとうございます!私は今回の映画で東北の人のおおらかとか明るさとか初めて知った気がしました。伝統芸能、民謡、民話もそこに暮らした人に守られた長い歴史があり、奥が深いと思いました。恥ずかしながら、東京に住んでいながら、ポレポレ東中野の映画館は初めて行きました。面白そうな映画がたくさんかかっています。渡辺さんの作品も自然エネルギーについてですね。興味あります。日曜日だったこともあるでしょうが、廻り神楽も劇場いっぱいの人でしたよ。なんだか嬉しくなりました。

No title

素晴らしい解説と感想、ありがとうございます。
何も付け加えることはありません。完璧です。
私も、あるばとろすさんの文章を読んでいるうちに、
映画の色々なシーンが鮮やかに蘇ってきました。私は特に宝来館の女将さんの言葉が強く印象に残っています。三陸の方に行くと、大体家族に何人かは津波で亡くなった人がいるんです。私の実家の方もそうです。私の祖父も叔母も津波の犠牲者なんですよ。じゃあなんで地震とか津波とかあるのにそこを離れないか。海は辛いこともいっぱいあるけど、それ以上に大きな大きな恵みをもたらしてくれるところでもあるのです。神楽はもう普通に日常の中にありました。私の父親は七か月船で仕事、おか(陸)にあがると、いつも親戚を家に集めてお祝いをしていた時がありました。飲めや歌えやの大騒ぎ。そんな時は、必ず神楽の上手な叔父さんが「恵比寿舞」を踊ってくれました。子供の頃、踊りを見たかったり、陽気な大人たちの様子をずっとみていたい、と思いつつ、いつの間にか眠りにおちているの。だから、まさに神楽は私のゆりかごみたいなもんです。

まだまだこの気持ちを伝えきれませんが、この先いつかお会いすることがあったらどうぞ続きを聞いてくださいませ(笑)

三陸

sognoさん コメントありがとうございます。そうだったのですか。廻り神楽をみたあとなので、sognoさんの言葉のひとつひとつが心に響いてずっと分かるような気がします。三陸の皆さんのあたたかさ、力強さを今回初めて身近に感じました。いつか三陸に行った時に廻り神楽みましたよと言ったらすぐお友達になれそうなきがします。宝来館の女将さんの言葉、いまだに残っています。映画の力ってすごいですね。岩手放送のディレクターが、地元メディアがこれまで点でしか伝えられなかった三陸縦断の巡業を、この映画は線で捉えたとコメントしていますが、この映画の功績は大きいですね。いつかお目にかかった時はいろいろ教えてくださいね。

No title

あるばとろすさん こんばんは

あるばとろすさんの素晴らしい、映画の紹介で「昔々・・・峠を越え」で、もう映画の世界に引き込まれてしまいました。
なんだか自分もそこにいるような感じ

残念なことに、今の所 長崎での上映予定がなく
せめて博多でいいから上映して欲しいと願っています。

廻り神楽

phenixさん コメントありがとうございます!きっと博多にも行くと思いますよ。この映画のおかげで三陸がずっと近くなりました。これまで私もどこかタブー視していたのかもしれません。それぐらいインパクトのある映画でした。三陸の皆さんがおおらか!そして受け継いだ黒森神楽を少しも変えないで、同じようなに伝えて行くことにこだわっていることにも感銘を受けました。340 年!すごいですね〜!神楽の音がまだ耳に残っています。軽快で明るいです。

人間と自然と・・

東京にいると人間が本来持っているものを何か忘れそうですね。生きることそのものの本質とか・・土着的なものとか・・伝統芸能とか・・

いろいろなことを思い起こさせるドキュメンタリ映画の紹介ありがとうございました。東中野は近いけれど知らなかったです。終了日未定なので気をつけないといけないですね。

東京ではいろいろなものが失われていると感じます。
数年前に奈良に行った時、祈りがあふれていて、震災のことも風化させていないように感じました。

あるばとろすさんも次々と家族を見送られて、つらい長い時期を過ごされていたのですね。
今の時間を本当に大切にしたいですね。

落合賢という若手の監督がベルギー映画で震災と獅子おどりが出てくるショート・ムービーを作って映画祭のサテライトでスカパーで見ましたが、岩手での獅子踊りが印象的でした。
でもこの映画では三陸で亡くした恋人への罪の意識の象徴として出てきていました。
それとは真逆なので救われます。

クラウドファンディング

カンカンさん コメントありがとうございます。この映画は自主製作からスタートし、いくつかの助成金を得て作られたそうですが、最後の編集のところで資金が足りなくなったそうです。そこでクラウドファンディングで一般の人から足りない200万円を募ったところ見事達成したそうです。エンドロールで支援した人のお名前が出ていますが、こうして一般の支援者の協力を得ながら作られたことにも大きな意味があると思います。心に残る映画でした。

クラウドファンディング

姪がクラウドファンディングのシステムを利用してドキュメンタリー映画を作り、私も寄付をしたのでエンドロールに名前が載りました。
とてもいいシステムです。1本はフランスのテレビ局ので作り、もう1本同じ日本の聾唖者の青年がフランスに旅する分をそれで作っていました。
その作品が最近愛知のドキュメンタリー映画祭に招聘され、賞を取って嬉しかったです。クラウドファンディングではその後もフォローして今取り組んでいるフィルムについてもお知らせが来たりします。手話というコミュニケーションを題材にしていたので、そのご家族の団体からも支援されていました。彼女はパリ在住なのでスカイプで結んで青山で試写会があったりしました。
こちらの映画もぜひ見に行きたいと思っています。
彼女の作品はANAの国際線でもやっているとクラウドファンディングのニュースが最近来ました。外務省に勤めていて、コンゴにいたのですが、結婚してやめて、そこから映画製作の勉強を始めたので遅咲きです。残念なことにすぐ離婚してしまって、今一人でがんばっています。

フランス

カンカンさん クラウドファンディングは自分がいいと思った作品やパフォーマンスの実現に一般の人も参加することができ、またその後の活動も連絡が来るので、その場限りでない継続支援ができていいですね。姪ごさんはフランスで頑張っているのですね。フランスはそれぞれの個性とその人が何をしたいか、何をするかをとても大事にして評価してくれるのできっと姪ごさんに合うのだと思いますよ。

No title

ホント、素晴らしいレポートと感想をありがとうございます。
観に行きたかったけど26日までではちょっと時間が取れず…。
こちらを拝見して観に行ったつもりになってます。
実際の音を聴くと身体が動いてくるんですよ〜♪ 

神楽の音

香子さん コメントありがとうございます。そうそう香子さんも岩手ご出身でしたね。南の方でしたっけ?あの神楽の音を聞くと自然と体が動くのですね。血がさわぐのかもしれませんね。

初めまして

いつも楽しくブログを拝読しています。

今回は故郷岩手の映画を取り上げてくださったことが嬉しくて、
コメントをしたくなりました。

岩手と言っても、私は県南の出身なのですが、
あるばとろすさんの文章を読んでいたら、
昔花巻の鉛温泉(古い湯治場です)で出会った三陸の漁師さんたちのことを思い出しました。

三陸の人たちは長い冬の間、食料を持って内陸の温泉場に長期滞在し、
自炊しながら労働の疲れを癒やします。
私はたまたま彼らの演芸会に遭遇したのですが、
生バンド付の本格的なものでした。
漁師さんたちの生き生きした顔と歌声、
壁に張りめぐらされた大漁旗、
演芸会の朝、各部屋から流れていた三味線の音などを思い出します。

廻り神楽のことは知りませんでした。



この映画が札幌にきたら、
必ず観に行きます!

鉛温泉

すずよしさん はじめまして!コメントありがとうございます。北海道在住で故郷は岩手だったのですね。鉛温泉の三陸の漁師さんの様子をお話しいただきありがとうございます。にぎやかな湯治場の情景が浮かんできます。札幌にも映画が来るといいですね。

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プロフィール

あるばとろす

Author:あるばとろす
60代の東京の主婦です。2015年に祖母の着物を受け継ぎ、時々着ています。外資系企業で秘書や通訳ガイドをしていました。現在フランス語を学習中です。30年以上のバードウォッチャーです。あるばとろすはアホウドリの英名、仏名です。コメント大歓迎です。コメント投稿欄のパスワードは後からご自分で削除する時に必要なもので、なんでもいいです。An English and French speaking Kimono lover who goes out often to watch wild birds. Your comments are welcome if you like my photos!

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